東京弁護士会所属の弁護士宮川舞が、SNSでの発信活動やフォロワー数が、名誉感情侵害の判断にどのように関係するのかを説明します。
SNSで発信している人に対し、「自分からSNSで発信している以上、様々な反応が寄せられることは想定されるのだから、批判されても仕方がない」といった意見が向けられることがあります。特に、インフルエンサーと呼ばれる人については、否定的な意見もある程度受け入れるべきだと考えられることがあるようです。
しかし、自ら発信していることを理由に、侮辱的な投稿まで広く我慢しなければならないのでしょうか。
1 SNSで発信していることだけで、侮辱を受け入れる義務はない
名誉感情とは、自分自身の人格的価値について持っている主観的な評価のことです。他人の投稿によって傷ついたり、不快に感じたりした場合でも、直ちに違法になるわけではありません。名誉感情侵害が不法行為となるのは、社会通念上許される限度を超える侮辱行為と認められる場合です。
この「許される限度」を判断する際には、問題となる表現の内容や態様、投稿に至る経緯などを検討する必要があります。その中で、投稿の対象となった人が、どのような発信活動をしていたかについても考慮されることがあります。
もっとも、自分の発信に対して異なる意見や厳しい評価が寄せられることと、侮辱的な表現を受け入れなければならないことは、同じではありません。SNSを公開しているという1つの事情だけで、名誉感情の法的な保護が失われるものではないと考えます。
2 名誉感情侵害が争われた事案で、配信者としての活動を考慮した裁判例
東京地方裁判所令和7年8月22日判決〔令和7年(ワ)第70028号〕では、TikTokで動画投稿やライブ配信を行う、フォロワー約18万人の配信者に対する投稿について、名誉感情侵害の成否が争われました。
裁判所は、問題の投稿について、本人が容姿や年齢等を揶揄する趣旨を含むものと理解し、不快感や嫌悪感を覚えることは推認できるとしました。
一方、投稿自体や前後の投稿内容に、明確な誹謗中傷・人格攻撃と理解できる事情が見当たらないことに加え、本人が事務所に所属して配信活動を行い、フォロワーを募っていたことなども考慮し、不法行為にあたる名誉感情侵害とは認めませんでした。
この判決は、配信者であるという理由だけで名誉感情侵害を否定したものではありません。具体的な表現や文脈に加えて、本人の活動状況を総合して判断している点に注意が必要です。
3 フォロワー数や発信活動の実態、問題投稿との関係等を確認する必要がある
名誉感情侵害の判断において、投稿の対象となった人がどのような発信活動をしていたかが考慮されるとしても、数十万人・数百万人のフォロワーがいるアカウントと、千人程度のフォロワーがいるアカウントを、同じように扱ってよいのでしょうか。
この点については、単に「インフルエンサー」という呼び方で一括りにせず、活動の規模や実態を確認する必要があると考えます。フォロワー数のほか、投稿が実際にどの程度閲覧されているか、日常的な交流が中心なのか、PRや収益化などに発信力を活用しているのか、といった事情も踏まえて、発信活動の実態を具体的に検討する必要があると考えます。
ただし、フォロワー数によって、侮辱を受忍すべき範囲が機械的に決まるわけではありません。重要なのは、本人の発信内容と、問題となる投稿との関係です。自ら公開した商品紹介や意見への批評なのか、その内容を離れて人格や私生活を攻撃するものなのかによっても、評価は異なります。
「SNSで発信しているから」「フォロワーが多いから」という理由だけで諦める必要はありません。名誉感情侵害に当たるかどうかは、具体的な表現、前後の文脈、本人の活動状況などを踏まえて、個別に検討することが重要です。
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