最近、FB、Instagram等のSNSでなりすましの事例が増えているように思います。
SNSにおける「なりすまし」とは、本人のアカウントの内容に類似したアカウントを作成したり、本人の画像を無断使用したりして、本人アカウントであると誤認させるアカウントを作成することです。
本人のニックネームやプロフィール画像等が無断使用され、本人になりすまして投稿をしたり広告を出すという事例が増えています(実際に、なりすましへの対処についてのご相談もきています。)
なりすまし問題はどのような権利侵害となるのか、簡単に整理していきます。
1 名誉毀損やプライバシー権侵害として対処することが多い
第三者が、Aさんという本人になりすましてAさんのアカウントと誤認されるようなアカウント(以下「Aさんなりすましアカウント」といいます)を作ったとします。
Aさんなりすましアカウントが行った投稿内容に問題がある場合(例:特定の第三者を侮辱する、ヘイトスピーチを行う)で、その投稿が、Aさん本人による投稿であると第三者に認識された場合、Aさん本人の社会的評価が低下します。このような場合、Aさんに対する名誉毀損となります。
また、AさんなりすましアカウントがAさんのプライバシー情報(他人にみだりに知られたくない私生活上の事実だけでなく、私生活上の事実らしく世間に受け取られるおそれのある事柄も含みます)を投稿した場合、Aさんに対するプライバシー権侵害となります。
その他、要件にあてはまれば、肖像権等の権利侵害にもなります。
2 なりすましだけでは権利侵害にならないの?
本人がプロフィール画像として設定している写真をなりすましアカウントが使用した場合、それだけでは、プライバシー権侵害や肖像権侵害と認められません(本人自らがその写真を公表しているため)。
上記のAさんなりすましアカウントによる投稿が名誉毀損やプライバシー権侵害にならず、肖像権侵害にもならない場合。
でも、Aさんなりすましアカウントが、AさんだったらしないようなAさんの考えと全く異なる投稿をしている場合。このような状態は、Aさんへの権利侵害にならないのでしょうか。
このような場合、アイデンティティ権の侵害、が考えられます。
アイデンティティ権とは、「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」です。
ちょっとわかりにくいですよね。もう少しシンプルに、「他人になりすまされない権利」といってもいいと思います。
大阪地方裁判所平成28年2月8日判決は、「アイデンティティ権」という概念を認め、なりすまし行為自体が違法(権利侵害)となりうる場合がある、と判断しました(しかし、この裁判の事例において、アイデンティティ権の侵害は否定しています)。
現状、アイデンティティ権の侵害が認められるにはハードルが高いといえますが、個人的には、アイデンティティ権の侵害を認めるための要件を緩やかにすべきだと思います(赤の他人が自分になりますまして行動をしている、ということの精神的苦痛は、もっと重視されてよいと思います)。
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