前回のコラムで、「問題とされる表現によって特定の人や法人の社会的評価が低下すれば名誉毀損になります」と説明しました。この「特定の人や法人の社会的評価が低下」というところがポイントでして、社会的評価が低下するような投稿の対象者が誰であるか、特定できる必要があります。
以下、名誉毀損問題の重要な論点である「同定可能性」について、簡潔に説明します。
1 同定可能性が認められて、はじめて名誉毀損の問題になる
「同定可能性」とは、問題となる投稿に書かれている個人(又は法人)が、現実社会の個人又は法人であると特定可能であること、をいいます。
同定可能性がない場合、名誉毀損にはなりません。同定可能性が認められて、はじめて、
「名誉毀損となるか(=特定の人や法人の社会的評価が低下したか)」という判断に移ることになります。
なぜ名誉毀損で同定可能性が必要かというと、名誉毀損で侵害される権利が、「他者(社会)が自分(自社)に対して有している社会的評価」だからです。
「問題となる投稿が現実社会のどの個人(どの法人)に向けられたものか」が他者から見てわからない場合は、他者が有している社会的評価がそもそも下がらない、だから名誉毀損にならない、という理屈になります。
雑誌やテレビ等による報道では報道対象が誰なのか特定されているケースが多く、SNSやネット掲示板が普及する前は、同定可能性が論点となるケースはそれほど多くなかったように思います(モデル小説等、同定可能性が論点となるケースはありました)。
ですが、ネット掲示板やSNSでは、実名でなくハンドルネーム(ネット上のニックネーム)等でアカウントを運用する方が多いです。また、ハンドルネームと現実社会の個人がつながらないようにしている方が多いため、ハンドルネームのアカウントへの誹謗中傷が名誉毀損となるかを検討する前に、同定可能性が問題になることが増えました。
2 同定可能性の判断基準
同定可能性の判断基準に関する裁判例を挙げます。
「一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として、投稿記事から推知される情報により、投稿記事の対象が特定の個人ないし法人であると同定することが可能である~」
(東京高裁平成31年4月11日判決)
上記のように、同定可能性は、「一般の閲覧者(読者)」を基準にして判断されることになります。
一般の閲覧者(読者)を基準にして、問題となる投稿に記載されている属性を満たす個人や法人を1人(1社)に特定可能か、というところがポイントになってきます。
なお、同定可能性の判断は、問題となる投稿だけでなく、前後の投稿内容等個別の事情も考慮して判断されます。
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