発信者情報開示命令事件の手続詳細

2022年10月から始まった新制度である発信者情報開示命令事件の手続詳細を説明していきます。
発信者情報開示命令事件で裁判所が出す命令には、以下の3種類があります。
個々の事案に応じて、以下の命令のうちどれを求める申立てをするかを選択することになります。

  • 発信者情報開示命令
  • 提供命令
  • 消去禁止命令

1 サイト管理者・SNS事業者への申立ての流れ(提供命令申立てをする場合)

(1)該当サイトの管理者やSNS事業者(以下「SNS事業者ら」といいます)に対して、①投稿者の特定に必要となるIPアドレス、タイムスタンプ、アカウント情報等の発信者情報開示命令申立をし、②提供命令申立をします。
②の提供命令申立は、①とセットで申し立てることが可能なものであり、②だけを独立して申し立てることはできません。

(2)発信者情報開示命令申立と提供命令申立をした場合で、裁判所が申立を認めたとき、提供命令がまず先に出されます。SNS事業者らは、提供命令に従い、自社が保有している投稿者のIPアドレス等から接続プロバイダを調査し、申立人に対して、その接続プロバイダの氏名又は名称、住所を提供します(SNS事業者らが、接続プロバイダを特定できませんでした、と回答してくるケースもあります)。

(3)提供命令の結果、接続プロバイダがどこかがわかれば、申立人は、接続プロバイダに対する発信者情報開示命令申立てをすることが可能になります。

2 接続プロバイダへの申立ての流れ

(1)SNS事業者らから開示を受けた接続プロバイダに対して、①住所氏名等の発信者情報開示命令申立をし、②ログの消去禁止命令申立をします。
②の申立は、①とセットで申し立てることが可能なものであり、②だけ独立して申し立てることはできません(なお、実際には接続プロバイダは任意に保存をするため、②の消去禁止命令が実際に発令されることはほとんどないようです)。

(2)SNS事業者らに対し、「接続プロバイダに対して発信者情報開示命令申立てをした」と通知します。SNS事業者らは、この申立人からの通知を受けてから、接続プロバイダに対して、提供命令に従い、自社が保有するIPアドレス、タイムスタンプ等の情報を接続プロバイダに提供します(提供命令は、申立人に対する提供と、接続プロバイダに対する提供と、2種類あるということです)。

(3)提供命令の結果、接続プロバイダは、自社が保有する情報及び上記(2)のSNS事業者らから提供された情報により、投稿者を特定することが可能になります。

(4) 裁判所が申立を認め発信者情報開示命令を出すと、接続プロバイダが申立人に対し、投稿者の住所氏名等を開示します。

上記の流れは、発信者情報開示命令手続のシンプルなパターンとなります。

例えば、接続プロバイダがMNO(自社で回線網を有して通信サービスを提供する会社)であり、投稿者と契約をしているのがMVNO(自社で回線網を持たず、MNOから回線網を借りて顧客に通信サービスを提供する会社)である場合には、MNOへの提供命令申立+MVNOへの発信者開示命令申立、といった手続が増えることになります。

また、上記のSNS事業者らに対する提供命令が有効に機能するとは限らない、という現実があります。
提供命令には応じないという対応にしているSNS事業者や、提供命令に応じるが実際の提供までにかなりの時間がかかるというSNS事業者がいるためです。
接続プロバイダは契約者に対してインターネットへのアクセスの都度IPアドレスを付与しますが、この履歴(ログ)の保存期間は3~6か月であるため、提供命令に基づく提供に時間がかかると、この保存期間を経過してしまう危険があります。
そのため、「発信者情報開示命令だけ申し立てて提供命令は申し立てない」、「SNS事業者らに対しては発信者情報開示の仮処分を申し立てて、接続プロバイダに対しては発信者情報開示命令申立をする」といった、個別の事案に応じた手続の選択が必要になることがあります。

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